コロナ後の世界

冬の、嵐の時期に入ってしまったので、海に出にくい。

おお、晴れた晴れた、やったやったやった、海に出るべ、と出ると、油断して、60hpとかのエンジンしか付いてない船で出ると、ぴゅううううっっと風が吹いて、前に進まない、くらいならともかく、風に押し戻されて、船室からヘルムに出てきたモニに、

「ガメ、なんで後進しているんだ?」と言われたりする(←実は、実話)のが、この時期で、そりゃあなたcumminsの1000馬力x2なんちゅう、威風堂々、ディーゼルガズリングの機関が付いたボートもありますがね、旦那、あれはブルーウォーターに一家ででかけたり、いよいよニュージーランドが沈没すことになったりしたときに、家財と猫さんと、若干の人間を積み込んでアララト山に乗り上げるために持っているのであって、普通のときは乗りません。

つまらんもん。

でかい船。

ヨットなら35フィートまで、ローンチなら40フィートくらいまでがボートの醍醐味であって、それ以上は、おもしろくない。

パーティ用です。

見せびらかし用と言ってもよい。

おおきな犬を連れたさびしい男

おおきなボートをもった、さびしいカネモチ

バウ・スラスターとか必ず付いていて便利だけどね。

接岸も、おおきければおおきいほど、楽なんでがす。

満載排水量5万トンのビスマルクの浣腸、じゃないや、誤変換楽しい、艦長だったリンデマンは、さぞかし楽しかっただろう。

1万トンくらいの船でも、十分、接岸時に風に流されるが、5万トンもあれば、風などシカトなのではないか。

戦前、戦中、戦後を通して、終始一貫、戦争に反対して、文字通り、職も生命も賭して、戦い抜いた偉大な海軍人井上成美は、操船がどうしようもないほどヘタッピで、第四艦隊司令長官時代、桟橋に船体がぶつかる「ゴオオオオーン」という音がすると、「長官がお帰りになったぞ」と、士官室でみんなが笑ったそうだが、第四艦隊旗艦の鹿島は、たった5800トンなので、連合艦隊旗艦の7万トン、大和/武蔵のようなわけにはいかなかったでしょう。

閑話休題

海に出られないので、クルマで、モニとふたりでうろうろします。

Hole in the wall、あるいはハイフンで連結してhole-in-the-wall

(多分、アメリカ人がつくった)英語で、見かけがパッとしない小さな店のことだが、UKやNZの英語では、もうちょっと意味する店のイメージが狭くて、ほら、テイクアウェイ専門の、ビルの壁を刳りぬいてつくったような、客と相対して注文と品物の受け渡しをするような店があるでしょう?

あれのことです。

ANZACアヴェニューの足下の角のところにチョーかっこいいカレーを出すhole in the wallなインド料理店があって、そこを終点に決めて、来るときにはカレーふたつがセットになっているランチ弁当の、Aloo PalakとKadai Paneerにライスのセット、たった$7(邦貨約500円)だぜ、いえーい♥と固く心に決めて、塩ラッシーも買わなくちゃ、でもまだお腹が空いていないので、キャピタリズムの側でフラットブッシュという名前をOrmistonという、よりカッコイイ、ジェントリフィケーション名前に変えてしまおうとしているらしき、フラットブッシュに実家がある台湾系キィウィの奥さんがいるマコトさんが聴いたら、衝撃をうけそうな計画が進行中のOrmistonに新しく、忽然とあらわれた、巨大なモールを観に行った。

https://www.ormistontown.co.nz

巨大、と書いたが、ウエストゲイト、シルビアパーク、コマーシャルベイに次いで、おおきさは4番目くらいだろうか、一群のモールの初めのセンターが今年の3月に出来たところで、Good dog bad dogが入っていて、駐車の便が悪いCBDまで行かなくてもよくなったのはいいが、そのくらいのところで、もっと「ハゲ天」が入ったり、Bunny Chowを出すレストランがあるとか、もうちょっと個性を出してくれんかなあ、と思いまする

コロナが消滅してから9ヶ月たつニュージーランドは経済が予想よりも遙かに好調で、みんなホッとしたが、この国の「コロナ後経済モデル」はいろいろな点で特殊で、日本が追いつこうと努力するのは、頑固にワクチンを拒否する、罹患人口を引き摺りながら、「withコロナ」なんて白痴語を使えば、なんとか聞こえはいいが、ボロボロと、頑固者の死者を出しながら、ウイルスに汚染されたまま、ちからづくで経済を復興させつつあるアメリカモデルになるのでしょう。

終わってみれば、COVIDパンデミックは中世から17世紀にかけて間歇的に荒れ狂ったペスト以上のインパクトで、我々の文明を変形させた。

そこで擡頭したのは人種主義であり、寛容の放棄であり、孤立主義へのとどめようがない志向だった。

これから30年というような時程では、残念なことだが、例えばアメリカならば中西部と南部のみならず、東部も、都市部も含めてアジア人にとっては、たいへん住みづらい地域になるおおきな可能性がある。

イギリスは、ははは、ダイジョブですよ、誰も追い出したりしないから。

みんなで陰に陰ににこやかに微笑みながらアジア人を嬲るだけです。

大雑把にいえば、世界は分離と対立に向かっている。

外に向かっては、なかなかほんとのことを言わない白いひとびとも、いったん口にしだすと、他文明の人には理解できないくらい攻撃的になって、しかも暴力が伴う。

影響の良い方は、人間が内向しだしたことで、眼が内面に向かった。

生活とはなにか?

生きていく上で幸福であるとはどういう状態なのか?

以前に較べて文字通り桁違いの数の人が考えるようになった。

いくつかの、かつては普遍語としての体裁を身に付けつつあった周辺地方語、例えば日本語においてはテキストの文学はほぼ死滅してしまったが、スペイン語や英語では大規模なルネッサンスが観られて、今回の復活の特徴は、言語世界全体が積極的に、非母語人の表現を取り込み始めたことで、もう何度も書いたが、Kamila ShamiseやArundhati Royたちはもちろん、Min Jin Leeたち在米東アジア人作家たちを含めてもよいでしょう、英語は他言語の文脈を積極的に取り入れることによって再び若返って、黄金時代を迎えつつある。

コロナ後の世界は、だから、言語的には英語とスペイン語に集約されていきながら、一方の現実世界では人種主義、文明ブロック主義が復活するという分裂症世界になってゆくのかも知れません。

おお、すげー

Ormiston Town Centreを観て、すっかり感動したモニとわしは、クルマに戻って、ボタニーと総称されるこの辺りにくれば必ず寄るカンボジア人たちのスーパーマーケットに寄って、Ground chilli with fried garlic この世のものとはおもえないくらい辛い唐辛子のニンニク漬けを買って、一気にCBDに駆け戻って、われらのhole in the wall、Hobson Indian Takeawayでカレーをうんとこさ仕込んで家に帰った。

え?

それだけなのかって?

それだけなのよ。

そのあと、わしはスタディに閉じこもって、ヒイヒイ言いながら英語とスペイン語で文章を書いて、夜には、驟雨の空を見上げながら、件の杉の木で出来た、ホットタブに二時間くらいもつかっていた。

日本にいたときのことや、ニューヨークのアパートで、モニが泣きながら帰る後ろ姿を、胸が締め付けられるような気持ちで「判ってもらえるわけはない」と、つらい気持ちで考えながら、階上の窓から見送っていたころのことをおもいだしていた。

人間の一生などは須臾の間で、もう30代の後半になったわしは、意識して、自分の一日から価値のない時間、過ごすに値しない時間を排除していかなければならない。

少なくとも「オカネを稼ぐための時間」というような判りやすいダメ時間は排除されているが、わしは、例えばホットタブのお湯のなかに体を沈めながら、無心で、大粒の雨が降ってくる夜空を見上げながら、昔のことを考えて頬を濡らす時間のような、神様にも褒めてもらえそうな時間だけに自分の生活をひきしぼっていけるだろうか。

一日一日、なんだか緊張してしまいそうな気がしているのです。



Categories: 記事

10 replies

  1. ガメさんの船の話好きだなぁと読み続けると、なんと!フラットブッシュがOrmistonに名前が変わる可能性があるなんて、、、ぶっくらこきました。いやいやどうなってしまうのか、、、。

    • それがね。マコトさん奥さんが今度帰って来たらぶっくらこいちまうとおもうけど、もうすっかりOrmistonなの。わしはフラットブッシュ、好きだったんだけど。

      • えーっ、、、、、フラットブッシュ好きだったのに。。。。奥さんも絶句しております。

  2. >イギリスは、ははは、ダイジョブですよ、誰も追い出したりしないから。

    >みんなで陰に陰ににこやかに微笑みながらアジア人を嬲るだけです。

    😞😞😞😞😞😞いいもんUKいかないもん(そういう問題ではない)

  3. ガメさん、お久しぶりです!
    なんだか、日本だけじゃなく、世界全体も心配事が尽きないなと思いながら、
    まるまる太ってきた我が娘が脳裏にちらつきます。
    自分の怠け癖を嘆きながらも、ホント、無駄な時間を削ろうと思いました。
    日本はもうダメでも、自分たちの人生までドブに捨てるわけにはいかないっすもんね。

  4. ガメさん、私は子どもが成人して自分の人生は終わったような気がしているのだけど、しようとしていることもひとつあって、不登校の子たちの場所を作るんです。「不登校」って変な言葉ですよね。

    海の話をありがとうございます。

  5. 30代後半になって「人生は短い」と思い始めたようですが、まぁそうなんだけど、でも大丈夫ですよ。まだまだ大分あります。今や人生100年時代ですし。私などはあと少なくとも20年をどう楽しく過ごしていこうかと地味に下地作りをしているところです。

    • いいとしこいて、ちゅう、わしが大好きな言葉がありますが、年をとってくだらない時間の過ごし方をするのは、いかにも頭がワルソーで、かっこわるい。このへんで、もう一段おとなになってくれるわ、ということなんです

      • んだっきゃー。ほんとにさー、いぐでね年寄りにならねよにさねばまいねよ。
        (津軽弁でお送りいたしました)

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