レベル4ロックダウン

オリオンが、今日は、あんなに明るい、

とモニさんが言う。

細い長い形のいい指が、東の低い空を指しています。

午前4時前で、ふたりとも目が覚めていて、どちらから言うともなく、hot tub、露天風呂に入ることになった。

なんとなく、面映ゆいくらいの以心伝心で、夫婦というものは、最後には、そうやってテレパシーでコミュニケーションが出来るようになってゆくのかも知れないが、考えてみれば、モニとわしも、もう十年以上一緒にいるので、普段でも言葉を並べて説明しているような気がしているのも、気がしているだけで、ほんとうは、声に出された言葉は、補助で、手話における唇の動きの役割をはたしているだけで、ほんとうにテレパシーで気持ちを伝え合っているのかもしれません。

経路不明の感染者がひとり出て、電光石火、なかなか感心な素速さで、政府が最も厳しいレベル4のロックダウンを宣言してから、3時間と少し、経っている。

街は活動を止めて、いつもなら、遠く、高速道路から聞こえるクルマの音も、今夜は聞こえません。

それでも街灯はついているからでしょう、空は、ぼんやり赤みがついた明るみがあって、ところどころにある積雲のおなかを微かに照らしているが、星や星座が大好きなモニは、目聡く、オリオンがいつもに較べて数層倍も明るく輝いているのを見つけて、少し、これも「形がいい」と、どうしても書かずにはいられない細い繊細な顎をあげて、信仰する人のように敬虔な顔で、見ている人間がオリオンに嫉妬しそうな目で、三つに並ぶ星を見つめている。

初めからレベル4だったね。

明日から、みんな、お休みだね。

緊張することの多い今年の前半だったから、一週間、完全におやすみで、返ってよかった人もいるのではないか。

政府は、緊急宣言を出すと同時に、最も初めに述べたことは、収入は補償される、すぐに現金が振り込まれるから、口座にオカネが入っていない人は、躊躇わずに連絡してください。

忘れないで。

われわれは500万人のニュージーランドという名前の、ひとつのチームなのだから、おたがいに、親切にして、相手の立場をおもいやって、助けあって、この危機を乗り切ろう。

政府が、繰り返し、職場や、学校や、政府の広報、ほとんどあらゆるルートを通じて「Be strong, be kind」のメッセージを伝えている。

国民の側は、ドビンボ·ドマジメな国民性を発揮して、仕事帰りの疲れた足で、スーパーマーケットに直行して、とりあえず一週間に必要なものを買い出しするために、冬の冷たい風に震えながら、延々長蛇の列に、じっと黙って並んでいる。

前回の6週間のレベル4ロックダウンで、お馴染みになった光景で、こればかりは政府がいくら口を酸っぱくして「買いだめをする必要はない。パニックバイングに走ってはいけない」と述べても、聴かずに、スーパーマーケットの棚は、レベル4ロックダウンのニュースが流れて、ものの30分もしないうちに、カラになってしまったようでした。

今朝になってみると、すべてデボンポートの第一感染者を起点として、新たに4人の感染者が見つかって、たった一日で、新規感染者が5人ということになった。

デルタ株は、手強いなどという生やさしさではなくて、どの国の政府も御すのに、あの手この手を考えるが、ワクチンすら効果が限定的なのが判っていて、結局、社会活動を停止するか、ある程度国民を見殺しにするかの決断を迫られることになった。

ニュージーランドのような国には前者の選択しかありえないので、必然的に、結論は、経済活動を、またも、いったん完全に停止して、しかもその上に補償金を払いまくって、ますますビンボになるしかないが、それは国として最低限の役割なのだから、やむを得ないとして、今度は前回の、ロックダウンのレベルには依存しない大損失の経験から、泥縄式に事態にあわせてレベルを厳しくするよりも、初めから最も厳しい、外出禁止、労働禁止、経済活動禁止のレベル4で、その代わり、極力短期間にして、若い首相を中心に、閣僚、専門家たち、さまざまなシンクタンク、おおきな声では言わないほうがいいのかもしれないが、そこが小国の面白いところで、良い知恵がありそうな、投資家やビジネスマン、ニュージーランドに滞在ちゅうのIT guruやビリオネアたちに至るまで、ときに首相が直接ビデオ電話をかけて、意見を聴いて、「これしかない」と思い詰めた方針を発表する。

ニュージーランドは、若い、ビンボな小国で、余裕もなくて、自分たちの真剣さだけが頼りなのが、国民のほうもよく判っているので、ニュージーランドのトレードマークの、No worries、気楽にいこうぜ、の テキトー国民性からは想像もつかない張り詰めた緊張が伝わってくる。

普段は、歯に衣を着せないどころではない、偽善家の集まりなのではないか、あんたたち労働党閣僚のなかに経済が判る人間がひとりでもいるのか、人道的であれば国民はどうなってもいいのか、辛辣を極めて、激烈な政府への批判を繰り返すジャーナリストたちが、「ベストケースシナリオは、レベル4のスナップロックダウンがうまくいって、おれたちが『政府のコロナ発生への反応はオーバーリアクションだった。やりすぎだよ』と政府を攻撃できる事態になることだとおもう」とやさしい気持ちで述べている。

政府や国民と一緒に事態の速やかな収束を願っているのを隠しもしないで、首相達の必死の努力を見守っている。

小さい人達の教育の手配や、家宰さんとの連絡事項を話しあって、あーあ、これは5年はかかるな、とモニさんが呟いて、手足をお湯のなかで伸ばして、体をリラックスさせている。

シンクロナイズドスイミングのように、片方の足を高く空に向けて突き出して、ふざけてみせている。

いつも「白すぎて嫌いだ」と自分ではいう、透きとおるように白い脚が、明け方が近い夜の薄闇のなかで、ぼんやり輝いています。

5年、かかるかな?」と、わし。

「ガメ、甘い。5年は優にかかるぞ、これは。そのあともきっと、HIVと同じで、なんとか工夫して共存する、というほうへ行くとおもう」

そうか、と、わし。

昔からモニの言うことはいちもにもなく信じて、それで困ったことはないので、今回も、なるほどCOVID禍は5年つづくのだな、と、咄嗟に前提して、自分の投資計画や事業を、職業病で、自動的に修正している。

若い人がかわいそうだなあ、と、ふたりで話しあっている。

30代の5年と20代の5年、まして十代の5年では、意味がまったく異なるだろう。

そういえば、ほら、マリンエンジニアのHさんの、足を折ってしまったおかあさん!

もう88歳なのに、病院ごと面会謝絶だから、ひとりで不安な夜を過ごさないといけないんだね、気の毒に。

離婚を契機に家を売って、キャンパーバンを買って、ニュージーランドを一周する予定だったGさんも、さぞかしフラストレーションを感じているに違いない。

多分、モニの生まれついた強運のせいだけど、モニとわしは運がよかった。

Touch wood!

なにしろ今度の露天風呂は杉材で出来ているので、触るための木だらけで、前のジャグージーのように、木が見つからなくて、やむをえず、代替のデコに触ったりしなくていいから、今度はいいね。

もう2時間もお湯に浸かっているので、モニさんの頬は、文字通り薔薇色になって、普段でも若いままのひとだが、いっそう時間を遡って、初めて会った、十代のときのようです。

モニさんの、薄い湯煙の向こうの美しい顔をこっそり盗み見ながら、人間の一生は、ほんとうに運だなあ、と改めて思う。

わしの場合は、モニさんと出会ったことがすべてで、他には何もないし、また、何もいらなかった。

自分の場合は、そうやって、たまたま良い運勢に恵まれたが、人間の一生などは、つくづく、運の流れのなかを、くるくると周りながら流れてゆく木の葉のようなもので、自分では努力の賜物であったり、能力を発揮した結果であったと自惚れてみても、ほんとうは、ただ、ひたすらに運に運ばれてゆくだけの一生なのでしょう。

モニ、ありがとう

と述べると、

こちらこそ、

とふざけた調子で述べて微笑っている。

いつか「I love you」と述べたら、モニが日本語で「まいどー」と言うので笑い転げたことがあったが、

今日は、普通に「I love you too」とやさしく応えている。

オリオンが、あんなに高いところにのぼっている!

モニが見上げている方向を見ると、なるほど、三連星が、いつのまにか、東の高い空に位置を移しています。

さあ、家のなかに戻ろうか

なんという楽しいロックダウンだろう

明日から、一週間、なにをして遊ぼう

モニ、大好き

穏やかで幸福な生活をくれて、ほんとうに、ありがとうね



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8 replies

  1. なんてステキで素晴らしい文章。「まいどー」ありがとうございます。

  2. 素敵ですね!

  3. きみにはモニさんがいるからいいが、モニさんのいない我々はアドバンテージ(日本語)がないではないかよぉー😠
    たまには女神を分けてよねまったく😠

    …という冗談はおいておいて。
    先日「ワクチン接種後にデルタに罹った」日本在住の人の話を聞いたよ。
    アンドリューマーがG7後に罹ったけど軽くて済んだ、と話しているのを思い出して
    「でも、軽かったんだよね‥?」と聞いたらそうではなかったと。
    回復しているのが幸いではあるが。

    一瞬ぞっと来て、デルタは白い人を殺そうとしてるのか、と思ったけどもちろんウィルスには人種も国籍も日付も土地も関係ないのは言うことないね。

    NZの人々がいいお休みを取れるといい。
    我々はあの政府を引きずり降ろさないとほんとどうしようもない…
    最近はそういう話をしなかった日本の人達まで「あのくそ政府」と言ってるのを聞く。
    なんとかしたいよー😭😭😭

  4. デルタは疫学的特権と言ってもよかった日本人に多い免疫系をバイパスするので、罹患の人種的平等が実現されるらしい(^^;) マスマスキングだけが理由ではなかったのね。最近は「本?本って、何?エッチな写真が載ってるやつ?」だったNZ人が俄然、本をたくさん読むようになったらしい。

    あとはね、なにしろ経済がブームっていたので、あっちでもこっちでも開発や工事で賑やかだったのが、突然、森閑となって、静かなのが新鮮でよい。

    ま、もともと、わしはロックダウン生活みたいなのが性にあってるんだけどさ

    • >デルタは疫学的特権と言ってもよかった日本人に多い免疫系をバイパスするので、罹患の人種的平等が実現されるらしい

      ああーーーー…納得。合点がいく。

      >本って何?エッチな写真
      😂
      じゃあ、このまま進めばルネッサンス生まれるじゃん。やったねNZ。楽しみにしてる

      わたしは半分ロックダウン生活が好きだけど、多少は外に出て人間と触れないと精神と肉体の健康が保たれないことに半年引きこもってようやく気がついたけどこれだもの。
      街の音を人の声を聞かないと音楽が生まれないと感じてる。

      創作のためにもこそこそ人混みを避けて出るしかねぇー😂命懸け〜

  5. p.s.数日前に虹を見る夢を見たの。晴れてる!虹が出てる!と夢の中でたいそうよろこんだ。(というほどこちらでは毎日雨が降っている)

    写真、サンキュー

  6. はぁあ😏お惚気だよ😏
    オリオンの明るく光る露天風呂、
    良いなぁ。薔薇色の頬の人と💕

  7. “夫婦というものは、最後には、そうやってテレパシーでコミュニケーションが出来るようになってゆくのかも知れないが、”

    段々とそんな気がしてくるのは理解できるけど、そうやってテレパシーの比率を増やしていってしまうと、ある日、モニさんに「おいガメ、おまえ何も分かってないな」と、三下り半を突き付けられてしまいますから、心して今後とも意思の疎通に努めてください。

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