紅の空

一国の軍事力というものは見えている部分は全体の5%で、95%は本人たちでさえ、判っていない。

オークランドのバルモラルに昔から流行っている餃子屋があって、最近は、味が落ちたので行かなくなってしまったが、むかしは月に一回はでかけて餃子を食べていたものでした。

テーブルを客に選ばせないどころか、注文するものまで、「めんどくさいから、こっちにしろ」と述べて、客が、嫌だよ、おれは自分が食べたいものを食べるんだ、とでも言った日には、ぶっちゃむくれて、料理が出来ると皿を文字通りテーブルに放り投げていく。

なにを勘違いしたのかポリネシアの人達が勘定を済ませてドアを開けて出ていこうとすると、厨房から飛び出して駈けてきて、あんたたち食い逃げするつもり!と食ってかかって、店中の耳目を集めて、ランチタイムの見せ場をつくる。

終いには全国紙ニュージーランドヘラルドに「味もサービスの悪さもオークランド一の有名店」と書かれる始末で、もんのすごいサービスだが、それでもランチタイムに限らず店内はいつも満員だったので、味は想像がつくでしょう。

最近、亡くなったのではないかとおもうが、この店を始めた70代くらいのおっちゃんが、どうやら日本が大嫌いな人で、テーブルの脇に立って、日本人がいかに酷いか、モニとわしに滔滔と聞かせたりしていたが、多分、おっちゃんが選んでいるので、「中日、もし戦わば」のDVDがよくかかっていて、陸軍圧勝、航空力圧倒、海軍も楽勝で、例えばアメリカが加勢しても、いまの人民解放軍でも勝てる、と述べているのが、わしのダメダメ中国語でも理解できるくらい高らかに解説されていた。

香港の悲劇をきっかけにして、中国語世界は、たいへんな緊張のなかにある。

次は台湾だと習近平が公然と述べているからです。

やりたくはないが、必要ならば上陸作戦によって武力で占拠する。

だって、もともと自国の一部、台湾人は、不法に蟠踞しているだけだからね、ということのようでした。

日本では「いや、あれは単なる脅しですよ。だって戦争をやって台湾を取っても算盤があわないもの」が一般的な意見です。

第一、軍事的に中国はアメリカ極東軍に勝てない、と軍事専門家で、多少でもあてになりそうな人は口を揃えて述べている。

勝てない軍事力でアメリカに戦争をふっかける国なんて考えられるわけがないじゃないですか。

聞いているほうは、1941年に、アジアの東の端っこのほうに自分たちでも勝てるわけないと思っているのに戦争を盛大に始めてしまって、見事に廃墟にされた国があったよーな、と考えるが、失礼なので言い返しはしません。

面白いもんだな、と心のなかで呟いてみるだけである。

オーストラリアが原子力潜水艦を配備することに決めたことが話題になっている。

外交的には大失敗で、なにしろ世界のイナカモン豪州と、世界とはおれのことじゃ、のアメリカと、オポチュニストで歴史を通じて知られている連合王国の三バカ、じゃないや、三大国が決めたことなので、いっくら文句を言うのが好きでもフランス人は「ばーか」くらいで済ませてくれるだろうとおもったら、やっぱりフランス人はフランス人なので、怒り狂って、オーストラリアとアメリカの大使を召還してしまった。

あれ?イギリスの大使は?とおもったひとがいるかもしれないが、フランス人はイギリス人の生まれついてご都合主義の、ずっこいテキトー体質には慣れているので、あんまり改めて激怒する気が起こらなかったもののようでした。

オーストラリアやアメリカから見ると「気にもしていない」ということになるが、日本の、入港する空母に核兵器が満載されていて、のみならず国内に核弾頭の備蓄さえあることを世界中の人が知っているタテマエだけの嘘っぱち「非核三原則」とは異なって、1985年にはDavid Langeが、いまでは実際には核を搭載していなかったことが判っているが、核ミサイル搭載能力があったミサイル駆逐艦DDG-14USS Buchanan の入港を拒否して、アメリカから実質的な非公式軍事同盟破棄を通告され、国際社会から干されて、その後20年余もイジメに遭ってきた非核原則厳守の「生意気な小国」ニュージーランドにとっても、またあらたな頭痛の種が生まれることになった。

外交的には、チョンボx3の大失敗だったが、軍事的には妙手で、どんちゃん騒ぎをしながら航行する、ここよー、ここよー、わたしはここよー、なフランス通常型潜水艦と異なって、不可視性は折り紙付きのアメリカ型原潜は、実は人民解放軍にとっては、最大の苦手なんです。

まじめに付け加えると、現代の海軍では原潜はジュットランド海戦時代の戦艦に相当する最重要戦力でもある。

多分、南シナ海における戦争の危機が、5年は、先に延びたとおもわれる。

好事魔多し

小田急線には酔っ払い多し

アフガニスタンから無理矢理撤兵したでしょう?

あれは中国との対峙に集中心を持つためだったのは、いまでは世界の人が認めている。

ときどき記憶が途切れるらしいバイデン老人も、自分の意図を憶えていて、そういう趣旨の発言を行っている。

つまりは、どういうことかというと、2012年に最高指導者となってから、十年の節目である2022年までに、どうしても、誰がみても、「毛沢東を越えた」と認めざるをえなくさせたい習近平にとって焦眉のスポットは台湾にしぼられた、ということです。

戦争をやればどうなるか。

表に出ている軍事力だけを較べれば中国がアメリカに勝つでしょう。

ところがところーが

一国の軍事力は見えている部分は全体の5%で、95%は本人たちでさえ、判っていない。

対潜水艦戦遂行能力が典型だが、軍事行動には練度が必要とされて、1979年に56万人を動員しておこなって、ボロ負けして撤退した、鄧小平のベトナム侵攻作戦以来20年以上もマジメに戦争をやっていない中国軍は、海でも空でも、戦争が国是と化していて、毎年どこかで激闘を繰り返して、敵兵や市民を効率よく殺し続けてきたアメリカ軍とでは、多分、勝負にならないのではないかとおもわれる。

「人類と人道の敵」ヒットラーとトージョーを、やっつけるために起ち上がったヒーローとして自分たちを看做して、心おきなく、手当たり次第に、ぶっ殺してあるいた「The Good War」以来の、ひさびさの「正義の戦い」だしね。

しかし、戦争は仕掛ける側の主観で起きる。

経済の算盤や、未来への合理的判断でもなく、おおきな軍隊を持つことによる、一種の国民的なコーフン状態によって起こります。

負けるに決まっていて、全国民が枕を並べて討ち死にする覚悟で、それでも、にっくいアメリカとイギリスに「ひと泡ふかせる」ために、米英の側では「え?ほんとに戦争やるの?」と、ぶっくらこいてしまった戦争を仕掛けた日本の人が、いちばん、よく判っているはずです。

大日本帝国海軍は大和と武蔵の性能を「パナマ運河を通らなければならない」アイオワ級戦艦と較べて、海戦に絶対に勝てると信じていた。

素人は戦術を語り、軍人は兵站を語る

というが、なあに、軍人でもダメな人はダメで、インパール最前線の遙か後方のメイミョウで、毎晩酔っ払って、芸妓を抱いて「イケイケどんどん」をやっていたので有名な牟田口廉也などは「兵站?そんなもんイギリス軍の補給物資をいただいてチャーチル補給でいけや。シンガポールでも、それで勝ったやん」と

「おれは、このナポレオン式でシンガポール要塞をおとしたんだ。なにも知らない素人が、なにをいう」と述べていた。

揚陸艦を熱心につくりつづけているところをみると、人民解放軍は、やる気まんまんでしょう。

アメリカに勝てると信じている。

最近の将軍たちの言動からも、「軍事専門家」のひとびとが考えているのとは異なって、脅しの段階を越えてしまっているようです。

では、ほんとうに勝てるかというと、まず無理で、軍隊には歴史と練度が必要で、中越戦争で見ても、計算では短期間で楽勝のはずであったのに、例えば地雷原を突破する作戦要領を欠いていたために、人海戦術で投入した夥しい数の兵士が死に、あるいは次席指揮官という概念を欠いていたために、上級指揮官が死亡したり、連絡不能になった場合に、数人の指揮官が互いに矛盾した命令を発令して大混乱に陥ったりしていた。

台湾の次は日本で、もちろん日本の人は、近い将来を見越して中国の民主派を、いまのうちから強く支援していかなければ、いずれは危ないが、台湾は中国の侵攻の企てにも生き延びるのではないかと、わし個人は考えています。

ただ困るのは、日本は国家という形になっているけれども、中国から見れば、現実は列島ごと産業自給装置を備えた巨大基地で、意に反して戦況が苦しくなれば、巨大基地を全力で叩くことをめざす可能性がある。

朝鮮戦争のときに、ダグラス・マッカーサーは、自分が持つワシントンへの影響力を振り絞るようにして中国に核爆弾を落とすための政治工作をしたが、ホワイトハウスのマッカーサー嫌いも手伝って現実には至らなかった。

毛沢東を越えようとして焦る習近平はどうか。

もともと経済音痴の習近平が、意外や就任後8年を無難に過ごせたのは、自分には経済が判らないという自覚があるので、アメリカで先端的な経済を学んだ若い経済官僚たちの手に委ねていたからでした。

他のあらゆる分野と同様に、独裁者の通例に従って、近年の習は、他人に任せず、ものごとを自分で決定する強い傾向を見せている。

アリババを苦しめ、テンセントを恫喝して、経済を強権政治支配下でコントロールするという歴史上、いちども上手くいった試しがない試みに乗りだしている。

一方の日本側は、世界に類例がない「国防について議論することがタブーの国」です。

理由は、もちろん過去に行った侵略戦争の非道で、ネット上でも、ひと言でも国防について意見を述べれば、さっそく大喜びのバカタレ「右翼」や、軽躁で教条自動反射の愚かな「左翼」が、大喜びで発言者を黙らせにやってくるくらいで、現実社会に至っては、「頭がおかしい人」扱いされかねないので、多少でも世故というものが判れば、黙っているのに如くはない。

その結果は、20年後30年後を考えればあきらかで、日本はいまの精神的奴隷国から一歩すすんで、現実制度上も隷属を前提にした国になるでしょうが、国防や軍事についての議論がタブー化されて、祖国を守るための思考を自ら禁忌化してしまったことこそが、綺麗事として八紘一宇を唱え、アジアを彷徨する軍団となって、無抵抗の市民を虐殺し、夜な夜な「女狩り」に出ては、強姦と口封じの殺人を繰り返した、国民規模の犯罪に口を拭ってきたことへの歴史からのしっぺ返しなのかも知れません。

せめて焦点が極東に結ばれたことを意識して、いまならば香港市民を、日本人として声を大きくして支援しなければならない。

中国の民主派に声を届かせて、日本の人が彼らと共にあることを伝えなければならない。

そうしなければ、隣家が洪水で流されるのをぼんやり眺めているうちに、洪水は自家の庭をひたし、床にあふれ、やがては国民としてのアイデンティティを押し流して、日本という文明がかつてあった、とだけ語り継がれることになっていきそうです。

今度こそ、起ち上がらなければ。

 

いま!



Categories: 記事

9 replies

  1. 自民党総裁選、そして衆院選を前にしてすごく参考になる記事でした。
    死に体の指導者が盟主様の元に呼び出しを喰らう理由をこの記事は裏付けていると思います。

    「国防について議論することがタブーの国」というよりは、頭のおかしい人たちが嬉々として国防を語るだけで、対抗勢力は異なる意見が色々あれど、まとまった意見がない、というような気がします。また両陣営の頭も前近代的だという評判を最近耳にします。
    前近代というのは、最近の中国やロシアの軍事研究と比較すると、という意味です。
    参考文献として、以下のような本があげられます。ボットやAI、そして諜報戦を駆使して経済的なコストを最小限に侵略を繰り広げるのが21世紀最先端だそうです。
    https://www.amazon.co.jp/dp/4909542337/
    https://www.amazon.co.jp/dp/4909542345/

    台湾の友人にも様子を聞いてみようと思いました。

  2. やっぱりそうなんですか。日本の自称軍師さんたちは鎧袖一触で米軍+自衛隊で圧勝できるという風に考えているようですが中国が勝つつもりなら米軍基地(日本、韓国)をまず叩き潰すんでしょうね。
    戦争になれば米国が負けることはなくても日本国は廃墟になっちゃうんですよね。

    • チョシンの戦い以来、米軍の最大の苦手は人民解放軍なのですよね。

      一方、人民解放軍の見果てぬ夢は「いつの日にか米軍に全面勝利すること」です。
      長年の劣等感から脱却するために、どうしても実現したい。

      そのふたつのコンプレックスのぶつかり合いの舞台に最適な戦場が米軍の巨大基地、自立性を持った要塞=日本です。

      日本人を守る為に米軍が駐留していると考える、おめでたい人びとは論外としても、未来の戦場に暮らす日本の人達が、どんなふうに考えているか、ぼくもいまのうちに知っておきたい気がします

  3. 「国防について議論することがタブーの国」というのは、私が、例の ブログ(?)で、これからおいおい書いていくつもりの、「私たち現代日本人は自信をもって〝正しい暴力〟を振るうことができない」という主題を、ずっとわかりやすく直截に言い表したものですね。

    現代日本語人は、暴力を肯定する言論を持つことができない。だから、自信を持って正しく暴力を振るうことができない。暴力は権力の核心だから、結局、権力を肯定する言論を持つことができず、権力を正しく行使できない。そして、権力は統治の実質だから、現代日本語人は統治を肯定する言論を持つことができず、正しく統治できない。

    明治以来、日本の人々は、近代国家を作ったつもりだったんだけど、急ごしらえの天皇制イデオロギーの化けの皮が剥がれてのち、暴力・権力・統治をどう自分と結びつけたらよいのか、分からなくなってるんじゃないか。――ひょっとすると、太平洋戦争に打って出たときに、すでに、言論・ロゴスで統御されない破れかぶれの暴力(荒ぶる魂)しか持っていなかったんじゃないか、と思います。

    • 「権力を肯定する言論を持つことができない」ことは、そのまま、すなわち、現実から乖離した言語しか持っていないことになる。権力を肯定する言論を持てないことは、また、権力を否定する言葉を持てないことであることも言うまでもありません。

      否定しているように思えば思えても、現実とは些かも関連性が持てない「吠え声」になるしかない。

      「荒ぶる魂」に頼って、ロゴスを捨てた瞬間に、いまの日本の名状し難い悲惨は始まったのだとおもいます。

      知性と出会えることの、なんという興奮!

      哲人どん (最近の気持ちの上では「田村先生」なんだけど、いまは哲人どんのほうが、いいや)、
      だいさんきゅ

  4. 「暴力はいけない」と言って無くなればいいがただの思考停止にしかならない。歴史を通じて減ってはいても戦争も暴力もそこにあるから。
    昔「暴力装置」と自衛隊を呼んで問責決議を出された人がいたようですが、実力組織と言い換えても実質は同じで軍や警察や国家によって秩序は保たれている。
    力であるから常に乱用される可能性はあって、そのために憲法や民主制を機能させなくてはならない。

    ある講演か講義の発言で学生が「自分も慰安婦の列に並ぶかもしれない」とまじめな顔で述べて、重苦しい空気になったのを思い出した。その時は性奴隷にされた人の証言を読んだ上でそんなことを言うのかと恐怖を感じたが「レイプが悪いことだとみんなわかってますよ」で済ませるリベラル男性よりは誠実なのかもしれない。

    何を抑圧してるかな?と自分の中の恐怖や怒りや冷酷や暴力性を眺めて感情の波に乗れるようになって視点が定まると少しものが考えられる。抑圧しているものは制御できないから複雑な世界で目を開いて希望を持っていられるように生きたい。

    • 前 中国の地震の時に中国加油てツイートしたらフォロワ多い人とお話したからか作ったばかりのアカウントふたつからありがとう!てリプライきて情報集めるお仕事中(たぶん)なのに人間らしいなあと思い仲良かった今アメリカにいるらしい中国系友達ともあいまって中国の人なんとなく好きだし戦争なんか嫌だし民主派応援する

  5. 感想なので無視して頂いて構わないのですが、数日考えましたが「95%」には具体的にはどんなものがあるのか想像がつきませんでした。記事、面白く拝読しました。

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