友だちへの手紙

スマートフォンの画面を見つめている。

長い髪から覘いている二本の白いケーブルが世界から話しかけられることを拒絶している。

午前3時の雨に濡れた歩道を歩いている。

 

 

何度も、この世界を破壊しようと考えたのに、世界は悪巧みと邪な知恵に満ちて、壊されるのは、わたしのほうで、圧倒され、侵入され、もみくちゃに消費されて、裏通りのダンプスターに放り込まれる。

どうすればいいのだろう?

もっと強い言葉を獲得すればいいの?

わたしが心から求めている表現は、いったい、この世界のどこにあるのか?

どんなに息を詰めて潜っていっても、水底に手がつかない、息が苦しくなって、水面を明るく照らしている見せかけだけの陽光に帰らなければいけなくなる。

どうすればいいのか?

いっそ銃砲店のショーウインドウをたたき割って銃を手に入れて、あの高い塔から逃げ惑うひとびとを撃ち殺せればいいのではないか。

 

 

空にはガーゴイルたちが飛び交っている

空には精霊たちが立ち尽くして地上を見つめている

 

 

あなたには、それが見えないのか?

自分が生まれてきた人生で成功しているというだけで

すっかり機嫌がいい

豚たち

22ndからウクライナ人たちのコミュニティまで歩いていった

他に行くところもなかったから

 

涙が止まらない

悲しいことなど、なにもないのに

息ができないほど嗚咽がこみあげてきて

唇をかみしめて

拳を握りしめて

でも、そんなことは問題じゃないんだ

わたしが泣いていることよりも

まして、わたしが苦しい気持ちでいることよりも

わたしという体積が

この大気をおおきさのぶんだけ押しのけていて、

少しだけ空気を濃密にしている

そっちのほうが ずっと大事なことなんだ、

「もの」は精神よりも重要だ、と、そのひとは述べていた。

奇妙なくらい身体がおおきくて

ぼくは歩く塔なんだとでも言うように、途方もなく背が高くて

なんだか、この世界にちゃんとピースとしておさまっていないようなひと

身体から、すっかり力が抜けてしまう

夕方から朝まで続いた激しいセックスのあとで、

そんなことをオオマジメに述べるほど、あのひとはマヌケな人だった

わたしを心から笑わせてくれた

ただひとりの人

精神などは認識ですらない

ただのアイデアでしょう?

肉体は、ほら、ちゃんとここにある

触れれば 自動的に反応する

ビビン チン〇コ

プクリ ニップル

窓から入ってくる 朝陽のなかで輝いている金色の産毛の言葉で

世界を説明することも出来る

でも魂には なにも出来やしないのさ

 

あんなクレイジーな人には 後にも先にも 他にはあったことがない

明日から日本に行くのだ、というので、

なにをしに行くの?

と聞いたら、「ぼくは日本語がわかるんだ」だって!

あんな嘘までついて、

わたしを笑わせてくれようとしてくれた

 

 

空にはガーゴイルたちが飛び交っている

空には精霊たちが立ち尽くして地上を見つめている

 

 

わたしは いったい

ここでなにをしているのだろう?

わたしの弱さ

わたしの愚かさ

わたしの痛み

わたしの 大切な痛み

あなたには決して理解できない

触れられさえしない

わたしだけの痛み

どうやったら死ねるのかな

自殺できる人は たいした実行家だとおもう

いちどだけ うまく行きそうだったことがある

ボーイフレンドの26階のテラスで

一緒にコクテルを飲んでいて

口論になって

ふと 飛び降りたくなった

あのときなら死ねたのに

ほんの少しタイミングが狂って

跳べなかった

「人間の子よ

神の言葉に耳を傾けよ

破壊せよ、と神は言った

破壊せよ

この世界のすべての人間的なものを

この世界のすべての善良なるものを

破壊せよ

破壊せよ

破壊せよ」

それは神様の遺言だった

 

 

空にはガーゴイルたちが飛び交っている

空には精霊たちが立ち尽くして地上を見つめている

 

 

彼らの涙が

空から落ちてくる

もうぼくは呼吸をつづけたくさえないのに



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3 replies

  1. あれ?わたしのこと書いた?わたしのことなんでそんなにわかるの?

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