未来を思い出す

どうしていますか?

どうしているかって、毎日、話しているじゃない、と、あなたは、あの「知」そのものの輝きを宿しているような眼を見開きながら、可笑しそうに言うだろう。

うん。

そうなんだけどね。

見上げると、高い屋根の下には、ガーゴイルたちが、頬杖をついて、地上を見下ろしている。

ぼくは人間の子がつくった通りを歩きながら、喉が渇いて、店に入って、グラッパを一杯。

知ってるでしょう?

ローマではグラッパは「acqua」で、人間の身体を満たすべきものなんだ。

歩道をあるきながら、ぼくは考えている。

戦争がやってくる。

世界の隅々にいたるまで

戦争が、あふれでた水の、洪水のようにやってきて、

きみやきみの家族や、愛しい人を、

濁流のなかに連れ去ってしまう。

こんな時代に、理窟なんて、あるわけはない

通用するわけがない

そんなときに、

あなたやぼくが愛する美術館や寺院に展示された「美」には、意味なんてあるだろうか

ぼくにはね

たくさんのたくさんの人が死ぬのが見えます

彼らは死ぬだろう

東欧の荒野で

ポーランドの森で

フィンランドの峡谷で

彼らは死ぬだろう

恋人の面影がおもいだせないと呻きながら

あれほど愛しい人の笑顔がなぜ思い出せないのかと呪いながら

舞台が暗転するように

この世界は変わってしまったのですよ

おぼえていますか?

NYCMETのバーで、シャンパンのボトルを何本もカラにして

広大な館内を

ふらふらと歩き回った

メソポタミアやエジプトの

美しい人達が

「どうも現代人は、しようがないね」と呆れ果てて

千鳥足のぼくを見ている

言い訳できるよ

あのときは

未来をおぼえていて

過去をめざしていて

ぼくは、とても苦しかった

人間が、どこに向かっているのか

もう知っていた

あれから14年もたっている!

ガーゴイルたちが、頬杖をついて、地上を見下ろしている。

ものうげに

なんだか、おもしろくもなさそうに

どうして、おまえたちは、そんなに愚かなのか、と言いたげに

神には、おれの気持なんか判らないんだ!

テキサスのCBDで、JFKが撃たれた教科書倉庫の

すぐ近くのカフェ通りで、

50代くらいの男の人が叫んでいた

わからないさ

神は

中東の砂漠で 半分砂に埋もれながら

浅黒い肌の男たちを

狙撃したことなんて ないからね

ぼくはどこへ行くのだろう

きみは

どこへ向かっているのか

世界は、どんどん非情になっていって

きみのことなんて、もうおぼえていない

人間のことなんて

もう構っていさえしない

銃口が火を噴き

爆弾が破裂し

言葉がちからを失った世界で

無力なひとびとが

人を殺すことで

自分の無力を訴えている

ぼくは通りを足を早めて歩きながら

いつか あなたと会ったことを考えている

もう、あの暖かい春の日の記憶が

過去なのか未来なのかも 判らなくなっている

ぼくは未来をおもいだす感傷にふけっているのか

過去をめざして 刻苦精励しているのか

理性の時代は去って、

国家という究極の暴力の泉から、

滾々と死が吹き出してくる

だから、もう国家なんて、見返りたくもないのだけど



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